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「コンテンツ庁」の新設などエンタメコンテンツ産業の促進について経団連が提言
経団連が2024年12月9日の定例会見で言及した「コンテンツ庁」新設を示唆する提言について、実際の会見映像と資料から詳細を確認しました。十倉会長は日本のコンテンツ産業について「輸出規模は自動車産業に匹敵する」と述べる一方で、コンテンツ業界の人手不足を指摘し、人材育成の重要性を強調しています。
アニメ制作会社の現場では、実際に「納期に追われ、新入社員の育成機会が確保できない」「一次請け以下の会社は目先の仕事に縛られてしまう」など、具体的な課題が浮き彫りになりました。
コンテンツ産業の持続的な発展に向け、アニメ制作の現場が政府へ期待する支援策や日本のアニメコンテンツの可能性について、経団連の提言内容と合わせて詳しく解説します。
「コンテンツ庁」の新設などを示唆する内容を提言(12月9日の経団連定例会見にて)
経団連(一般社団法人 日本経済団体連合会)は2024年12月9日の定例会見において、エンターテインメントコンテンツ産業の強化に向けた取り組みを発表しました。十倉会長は「経団連は、エンターテインメントコンテンツ産業の委員会を新しく立ち上げ、非常に力が入っています」と述べ、注力姿勢を明らかにしています。
「日本の今の(アニメなどの)コンテンツの持っている資源は、今のところ非常にいいものがたくさんあります。これは数字的にも出ています。 ただ、アニメコンテンツなどをこれから世界中に広めていくときに、やはりいくつか中心となる基盤を構築していかなければならないと思っています。」
会見ではこのように語り、今後の重点施策として、人材育成・基盤構築・デジタル技術の活用促進を挙げました。
日本のエンタメコンテンツをより世界に広めていくために、制作の現場で活躍できる人材の育成と、その環境整備の重要性も強調しました。また、特に韓国などの競合国がデジタル技術を活用して急速に追い上げを図る中、日本も積極的なデジタル化対応が必要であると明言しています。
会見の中で「コンテンツ庁を立ち上げる」と明言したわけではありませんが、経団連が発表した「FUTURE DESIGN 2040」(※1)では、「長期視点でのコンテンツ振興戦略推進、司令塔機能強化、関連予算の大幅拡充」が提言されています。これが「コンテンツ庁」新設の可能性を示唆する内容としてニュースでも取り上げられ、注目を集めました。
コンテンツIP世界ランキングの1位はポケモン
経団連の会見でもあった「日本のアニメなどのコンテンツ資源のよさは、数字でも出ている」という部分は、経団連資料「FUTURE DESIGN 2040」(※2)でグラフにより表されています。
グラフのとおり、コンテンツ産業は石油化学産業・半導体産業よりも規模が大きく、日本のコンテンツ産業が持つ潜在力は世界的に見ても極めて高い水準にあるといえます。経団連の十倉会長も「コンテンツ産業の輸出規模は、化学産業を超えて自動車産業に匹敵する規模」と会見で明言しており、経済的インパクトの大きさを強調しています。
また、2023年に経団連が発表した資料の中「コンテンツIP世界ランキング」を見ると、第1位にポケットモンスター、第2位をハローキティが占めています。上位25コンテンツ中で12個が日本のコンテンツであることがわかり、日本コンテンツ人気の高さは明らかです。
日本発コンテンツ産業の成功要因
日本発コンテンツが売り上げをあげている理由として、一つの作品を多角的に展開している点が挙げられます。例えばポケモンは、テレビアニメだけでなく、ゲームや映画としても楽しめ、さらにぬいぐるみやお菓子などの商品も展開しています。
コンビニやアパレルブランドといった企業とのコラボレーションも積極的に行うことで、新しいファン層を開拓していることも、成功の要因となっています。
アニメコンテンツの活用方法
アニメコンテンツの活用は、商品展開だけにとどまりません。近年では企業のブランディングやプロモーションにもアニメが活用されています。
例えば採用活動の場面では、会社の雰囲気や仕事内容をアニメーション化することで、若手人材にわかりやすく伝える企業やPR方法が増えています。
また、製品やサービスを訴求する際にもアニメーションを活用することで、親しみやすい印象を与えながら複雑な情報をスムーズに伝えることが可能です。ビジュアルにより内容を理解できることから、言語の壁を乗り越える力もアニメーションは持っています。
アニメコンテンツはグッズの販売といった活用方法だけでなく、日本国内さらにはインバウンドに向けても、さまざまな活用の切り口が考えられるでしょう。
〈check! アニメーションを活用した企業プロモーション7つの事例|アニメで制作するメリットを考える〉
高品質なアニメを生み出し続けるための制作現場における課題
アニメ制作現場では、大きく次の2つの重要な課題に直面しています。
- 人材不足・人材育成の機会不足
- 持続が難しい資金繰り
これらについて、それぞれの現状をアニメ制作会社の立場からお伝えします。
人材不足・人材育成の機会不足
人材不足・人材育成の機会不足が深刻な問題となっています。経団連の会長が「なんと言ってもコンテンツは人材」と述べていたように、アニメ制作の現場では、技術だけでなく制作現場独特の感覚を持っている人材が不可欠です。
アニメ制作会社といっても、厳密にはさまざまな制作会社や部門があります。第一原画・第二原画を扱う場合、動画仕上げ作業や背景美術を主に受注している場合など、受注している分野や得意としている分野はそれぞれの会社や部門により異なります。
さまざまな現場の中で共通して重要になるのは、抽象的なイメージを具体的な映像表現に落とし込む能力、いわゆるニュアンスを汲み取って形にする能力の育成です。
アニメ制作では抽象イメージの共有やそこからの具現化が非常に重要であるにもかかわらず、制作現場独特のコミュニケーションは経験で学んでいくしかないという現状があります。アニメ制作現場独特のコミュニケーション能力の開発には、具体的な制作経験や先輩クリエイターからの指導、そして試行錯誤の機会が不可欠です。
現状では「納期に追われているので、新入社員を育成する場というのはほとんどないに等しい」という状況に陥っているアニメ制作会社が少なくありません。このままでは将来的にアニメ制作業界の人材不足が悪化し、高品質なアニメを生み出し続けられない状況になり得ます。
商業として資金繰りが苦しい
商業的持続が難しい状況に陥っている制作会社が多いのも、アニメ制作現場が直面している課題です。例えば、1枚のアニメーション原画に対して数千円という単価で、それを大量に制作していく必要があります。制作会社は作業効率を上げて数をこなさなければ、収益を確保できません。
しかし、品質を保ちながら生産性を上げることは容易ではなく、時給換算すると事業として成立が難しいケースも少なくありません。このような状況から、特に元請けではない二次請け以下の制作会社は、目先の仕事を選んでいくしかないという現状があります。
低単価での労働は、クリエイターの生活維持を困難にし、若手人材の定着率低下や制作品質への影響といった問題を引き起こしています。それだけでなく、利益が優先になってしまい、会社として伸ばしたいと思っている分野に手を出せない、人材育成の機会を作れないといった部分にも影響がおよんでいます。
良質コンテンツを持続的に制作し世界に広げるために期待したい政策
人材不足・人材育成の機会不足や、商業として資金繰りが苦しいという課題から、現場としてはやはり「制作会社への金銭面での直接的な支援」に期待したいところです。
特に、制作会社の立場からすると、プロジェクト単位で補助金を申請できる仕組みがあれば、より積極的な事業展開が可能になると感じます。目の前の納期に追われる現状では、新人教育の時間を確保することすら難しい状況です。
しかし、プロジェクトに対する補助金などがあれば、会社として伸ばしていきたい分野に挑戦できるうえ、強みなどが明確になることで、新しい人材も獲得しやすくなるでしょう。数をこなし売上げを立てるという体制から脱却し、スタッフの育成に時間を割くことができます。結果として業界全体の底上げにつながるでしょう。
また、アニメ制作会社として新規事業を展開しようにも、そのためのサポートとなる補助制度がないのが現状です。制作会社の多くは、キャッシュフローの制約から新たな挑戦が難しい状況に置かれています。
海外展開を視野に入れた作品制作や、新しい技術を活用した制作手法の導入など、中長期的な投資が必要な案件に対する支援の仕組みがあれば、より多くの可能性が開けるはずです。
アニメーション制作は専門性を必要とする産業です。その価値を適切に評価し、持続可能な形で発展させていくためには、現場の実情を理解した支援策の実現が不可欠でしょう。制作現場の声に耳を傾け、実効性のある支援策の展開を、これからの政策に期待したいです。
(※1)FUTURE DESIGN 2040「成長と分配の好循環」~公正・公平で持続可能な社会を目指して~
https://www.keidanren.or.jp/policy/2024/082_honbun.pdf(内p57~63)
(※2)FUTURE DESIGN 2040「成長と分配の好循環」~公正・公平で持続可能な社会を目指して~
https://www.keidanren.or.jp/policy/2024/082_honbun.pdf(内p60)
(※3)内閣官房|新しい資本主義実現会議(第26回)「基礎資料」
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/atarashii_sihonsyugi/kaigi/dai26/shiryou1.pdf
(※4)経団連|コンテンツ産業の現状と経団連の取り組み
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/wg_contents/dai1/pdf/siryou2.pdf(内p.8)